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令和5年度 東京労働局 行政運営方針について

『令和5年度 東京労働局 行政運営方針』の中から抜粋して、「民間等の労働力需給調整事業の適正な運営の推進」について、項目ごとの取組を踏まえて、派遣会社や職業紹介会社として取組むべき事項についてまとめていきます。

まず、各都道府県労働局が策定する「行政運営方針」について説明します。

厚生労働省は、毎年4月1日付で「地方労働行政運営方針」を策定し、その内容を公表します。次に、各都道府県労働局は、この運営方針を踏まえつつ、各局内の管内事情に即した重点課題・対応方針などを盛り込んだ「行政運営方針」を策定し、計画的に行政運営を行います。つまり、「行政運営方針」とは各労働局の重点課題・対応方針等その年度の労働行政を運営するにあたっての重点施策が示されたものです。したがって、これを見ることにより、各労働局が何を重点事項として、定期指導などをはじめとした行政活動を展開しようとしているのかがわかります。

 

『令和5年度 地方労働行政運営方針』と『令和5年度東京労働局 行政運営方針』から、労働者派遣事業や職業紹介事業等に係る内容を抜粋したものは以下のとおりです。

 

<令和5年度 地方労働行政運営方針:厚生労働省>

第5 安心して挑戦できる労働市場の創造

1 労働市場の強化・見える化

  • 改正職業安定法の施行及び民間人材サービス事業者への指導監督の徹底

令和4年10月に施行された改正職業安定法の周知及び指導監督の実施を通じて、適正な運営を確保する。また、労働者派遣法の違反を把握し、又はその疑いのある派遣元事業主の指導監督に万全を期し、第6の2に記載する同一労働同一賃金に加え雇用安定措置に関する事項等、労働者派遣法及び職業安定法をはじめとする労働関係法令の適正な運営の確保につき徹底を図る。

 

<令和5年度 東京労働局 行政運営方針>

第6 多様な人材の活躍促進

8 民間等の労働力需給調整事業の適正な運営の推進

<課題>

民間人材ビジネス等については、労働者派遣法、職業安定法などの法令に従い適正に事業運営がなされることが必要不可欠であるが、労働者等からの相談・申告等を含め、法令違反が疑われる情報提供等も多く寄せられており、引き続き、厳正に指導監督を実施していく必要がある。

以上、東京労働局が掲げる「民間等の労働力需給調整事業の適正な運営の推進」の課題ですが、「引き続き、厳正に指導監督を実施していく必要がある。」と括られており、以下に掲げられている通り、今年度の取組は以下の5つとなっています。

<取組>

(1)許可・届出時の制度周知の徹底と厳正な審査の実施

(2)派遣労働者の均等・均衡待遇及び雇用安定措置に係る指導監督の実施

(3)改正職業安定法の周知及び指導

(4)いわゆる偽装請負、多重派遣に対する厳正な指導の実施

(5)悪質な違反を行った事業主及び違反を繰り返す事業主に対する厳正な指導監督の実施

 

また、公益社団法人 東京労働基準協会連合会の資料には、東京労働局管内の労働者派遣事業等に関連した各種データが示されており、それをまとめると次のようになります。

 

  • 東京労働局管内の労働者派遣事業所数は、12,386 事業所、職業紹介事業所数は 9,796 事業所と、全国に占める割合は約 3 割となっている。
  • 労働者派遣事業に係わる労働者からの苦情・相談の内訳(上位5位)

第1位「偽装請負、二重派遣に関すること」(14.7%)

第2位「派遣元事業所・派遣先の苦情処理」(11.3%)

第3位「就業条件の明示」(7.0%)

第4位「正規と非正規の不合理な待遇差の是正関係」(5.2%)

第5位「労働者派遣契約の中途解約」(4.6%)

  • 指導監督の実績(令和5年3月末現在)
 

 

指導監督実施

事業所件数

是正指導率

労働者派遣事業(対前年同期比)

3,408件(11.9%増) 93.2%(29.1P増)

職業紹介事業(対前年同期比)

578件(9.7%増)

83.9%(27.9P増)

 

東京労働局の今年度の取組や東京労働局管内の労働者派遣事業等に関連した各種データ、さらには昨年度の東京労働局の指導事例等を踏まえ、派遣会社や職業紹介会社としてどういった点に注意していく必要があるのかを整理してみました。

1.同一労働同一賃金と雇用安定措置について

令和2年に施行された派遣労働者の同一労働同一賃金については、昨年から労使協定を中心とした指導が集中的に行われています。労働者代表の選出方法について、投票しなかった者について、信任したものとみなすという方法は不適切であるとされたケースや労使協定の記載事項等の不備としては、「賃金を改善する」とすべきところを「賃金を見直す」としており、見直すでは、減給することも考えられるので不適切であるといった事例や「能力等が向上した場合は、手当を支給する場合がある」とあるが、「能力等が向上した場合は手当を支給する」等とすべきである等の細かい指導が行われた事例があります。令和5年度の労使協定はすでに締結済かと思いますが、6月末の事業報告書と添付して提出するまでの間に再度内容を確認し、事例にあるような不備等があれば修正をして再締結することも検討されたほうが良いかと思います。

雇用安定措置については、派遣労働者から希望を聴くということが追加され、派遣元管理台帳にも記載することが義務付けられましたが、希望の聴取や派遣元管理台帳への記載等に関する不備(派遣元管理台帳へ「希望を聴取した内容」といった項目が設けられているか等含む)といったところが散見されます。派遣労働者から希望を聴いた記録や派遣元管理台帳への記載漏れ等がないかチェックしてみてください。

2.改正職業安定法について

昨年改正された職業安定法は改正後1年経過していないこともあり、まだ、各労働局は周知することを中心に指導が行われていると思います。

職業紹介会社として重要な確認ポイントは、求人情報が最新の内容となっているか、労働条件の明示が曖昧なものでなく明確に明示されているか等を求職者の労働条件にまつわる記載事項だと考えます。したがって、この点は十分に確認することが最低限必要でしょう。

その他の法改正以外のところでは、業務運営規程や手数料表、返戻金制度に関する事項を記載した書面が利用者にわかりやすいところに掲示されているか各労働局の調査時には確認しますので、掲示書類についても正しくなされているか確認してみてください。

3.偽装請負、多重派遣等について

偽装請負や多重派遣に対する苦情が約15%を占めることからも、内部告発による法違反の発覚というリスクは大きいといえます。偽装請負等が発覚するきっかけは、請負と言いながら派遣先(発注先)から中途解約された等といった苦情が発端で実態調査が行われるケースがあります。また、労災が発生してそれが発端となるケースも見受けられます。

相手先から指揮命令を受けない体制やフローを確立し、継続することは当然のこと、就業する労働者への適切なフォローや迅速な苦情処理は重要なポイントです。

苦情処理、フォロー体制の強化に取り組んでみてください。

4.調査の方法について

調査の方法もこれまでは労働局の担当官が派遣元・派遣先に直接赴く、「立ち入り調査」が一般的でしたが、最近では集団定期指導(呼出による調査)といった方式が目立ってきているように思います。コロナ感染リスクを踏まえた対策だったのだと思いますが、指定した日程に複数の事業者が集まって効率よい点検と改正派遣法の周知徹底も可能になるため、今後はこの方式が一定程度実施されるのではないでしょうか。

執筆者 岡部 訓二

25年間、アデコ株式会社に在籍。
支社長、営業管理部課長、セールスコンプライアンス部長 等を歴任。
主に派遣法を中心としたコンプライアンス関連業務に携わる。
その後、人材ビジネスコンサルタントとして活躍し、2019年から社会保険労務士法人エンチカの労務コンサルタントに就任。