令和3年8月6日付で、令和4年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について局長通達が公表されました。
昨年は、「現下の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う労働市場への影響等を踏まえた取扱い」といった特例もありましたが、今年は、派遣労働者の雇用状況をみても、直近の雇用者数(令和3年4月、5月)について、前年同月及び前々年同月ともに増加となっており、新規求人数も前年同月比が増加傾向にあることから、原則どおり、直近の令和2年(度)の統計調査を用いることとされました。
一般賃金水準については、適用される年度の前年度に通達により示されますが、その算出に当たって活用する統計調査等は、直近の統計調査等(具体的には、適用される年度の前々年又は前々年度)の調査が活用されています。
一般賃金水準に用いる色々な指数がありますが、今回は、以下の指数が昨年と比較してどのように変更されているかを比較してみます。
① 能力・経験調整指数
・能力及び経験の代理指標として、賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した勤続年数別の所定内給与(産業計)に賞与を加味した額により算出した指数
0年 | 1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 | |
令和4年度 | 100.0 | 114.3 | 123.9 | 128.8 | 134.5 | 151.1 | 188.6 |
令和3年度 | 100.0 | 116.8 | 125.4 | 129.5 | 136.8 | 157.4 | 196.8 |
差 | -2.5 | -1.5 | -0.7 | -2.3 | -6.3 | -8.2 |
- 職業安定業務統計をみると、基準値となる0年の水準は一般事務で6円、システム設計技術者で16円等と上昇傾向ではありますが、能力・経験調整指数つまりは、経験年数に伴う上昇カーブが緩やかになってきており、上位の職務レベルへ移管する場合の急激な賃金上昇は抑えられる傾向にあります。
② 一般通勤手当
・同種の業務に従事する一般労働者の平均的な額のうち、通勤手当に係わる額のこと
【令和3年度通達の数値】⇒74円 【令和4年度通達の数値】⇒71円 【差額】-3円
- 71円は、無期雇用の労働者に支給された通勤手当の平均値をもとに算出した数値で、こういった計算式で算出されています。
「賃金構造基本統計調査(令和2年)」の所定内給与及び特別給与の合計額×「給与に占める通勤手当の割合」×制度導入割合
- 昨年は令和元年の統計調査に基づいているので、令和2年においては、新型コロナウイルス感染症の影響による収入の減少やテレワーク導入の増加による通勤手当の減少等も要因のひとつではないでしょうか。
- 令和2年度は、平成30年の統計調査に基づき72円でしたので、平成30年度より減少している状況を踏まえると、特に特別給与(賞与)の減少の影響が大きいのかもしれません。
③ 退職手当に関する調査
・「中小企業の賃金・退職金事情」(東京都)のみ更新されており、退職手当制度がある企業の割合については令和3年度通達では、71.3%だったものが、令和4年度通達では65.9%と5.4ポイント減少しています。また、モデル退職金の支払月数も以下のとおり減少しています。
3年 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | ||
自己都合 | 令和4年度 | 1.0 | 1.7 | 4.1 | 6.9 | 10.1 | 13.5 | 16.8 | 18.9 |
令和3年度 | 1.1 | 1.9 | 4.4 | 7.4 | 10.7 | 14.8 | 18.7 | 21.5 | |
差 | -0.1 | -0.2 | -0.3 | -0.5 | -0.6 | -1.3 | -1.9 | -2.6 | |
会社都合 | 令和4年度 | 1.5 | 2.5 | 5.4 | 8.5 | 12.1 | 15.4 | 18.7 | 20.7 |
令和3年度 | 1.7 | 2.7 | 5.7 | 9.1 | 12.5 | 16.5 | 20.3 | 23.3 | |
差 | -0.2 | -0.2 | -0.3 | -0.6 | -0.4 | -1.1 | 1.6 | 2.6 |
④ 退職金割合
同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金額のうち、退職手当(退職金前払いの方法、中小企業退職金共済制度等への加入の方法の場合)に係わる額
【令和3年度通達の数値】⇒6% 【令和4年度通達の数値】⇒6% 変更なし
⑤ 地域指数
・平成30年度~令和2年度の3年度分における各年度の賃金額の平均から算出した地域指数
都道府県別(1都6県)の比較
茨城 | 栃木 | 群馬 | 埼玉 | 千葉 | 東京 | 神奈川 | |
令和4年度 | 100.4 | 98.9 | 98.3 | 105.8 | 105.7 | 114.3 | 109.4 |
令和3年度 | 100.0 | 98.9 | 97.9 | 105.5 | 105.5 | 114.5 | 109.1 |
差 | +0.4 | 0 | +0.4 | +0.3 | +0.2 | -0.2 | +0.3 |
- 東京都が0.2ポイント減少はしてしますが、それ以外は横ばい又は上昇しています。
- 全国をみても鳥取や沖縄を除き、地域指数は上昇しています。
<まとめ>
「同一労働同一賃金」に伴い、派遣労働者の賃金や待遇について「派遣先均等・均衡」か「派遣元の労使協定」のいずれかの待遇決定方式を選択することが義務化されました。
「労使協定方式」を選んだ場合には、局長通達の一般賃金水準より同等以上であることが要件となっています。施行2年目の現在運用されている水準は、コロナ禍前の「令和元年度賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金」(賃構統計)と、「令和元年度職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額」(ハロワ統計)の2種類が基になっています。毎年、6月~7月に局長通達が公表されることになっていますが、毎年、この指標の増減に応じて給与を決定していく仕組みに対応するためには、増減に対応できるようある程度賃金額にバッファを持たせておくことも対策のひとつかもしれません。
とはいえ、基準値ギリギリで設定せざるを得ない派遣会社も沢山あり、賃金上昇に伴う派遣先との料金交渉等がもう一つの鍵になってくるのだと思います。