従業員を休業させた場合の賃金保障(休業手当)についてお話をさせていただきます。
お店を時短営業にしたことで、1日の所定労働時間(通常働く時間)が8時間の時給制アルバイトの方を1日5時間勤務とした場合を例として説明します。
アルバイトの方の労働条件は所定労働時間が1日8時間にもかかわらず、会社側の指示で1日5時間となり、3時間分の賃金が減少することになります。
労働基準法第26条には、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、会社(使用者)が休業手当(平均賃金の60%以上)を支払わなければならない旨が定められています。この規定の「使用者の責に帰すべき事由」とは、不可抗力による場合を除き、「使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む」と解されています。
不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事
故であること
以上の要素をいずれも満たす必要があります。
①に該当するケースとしては、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。
②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要がありますが、具体的に最大の注意を尽くしたか否かについては、以下のようなことが考えられます。
・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
等これらの事情から判断されることになるため、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務が免除されるものではありません。
今回の例では時差出勤で5時間は就労するので、最低限5時間分の給与は支払われますが、3時間分の給与も会社が負担する必要があるか否かという疑問が生じます。法令の定めでは、休業が労働日の1日全部なのか、あるいは一日のうちの一部の場合も含まれるのかについての定めはありませんので、使用者の責に帰すべき事由による休業であれば、労働基準法第26条が適用されます。
休業手当の額は、直近3ヶ月の賃金総額を歴日数で除した額(平均賃金)を算出し、その60%以上と規定されています。(なお、賃金が日額や時間給で決められ労働日数が少ない場合、総額を労働日数で除した60%に当たる額が高い場合はその額を適用(最低保障)することになっています。)
[例]
時給1,100円、通勤費支給なし、所定労働時間8時間/日
直近3カ月 | 支給総額 | 出勤日数 | 歴日数 |
1月(給与支給2/25) | 158,400円 | 18日 | 31日 |
2月(給与支給3/25) | 132,000円 | 15日 | 29日 |
3月(給与支給4/25) | 176,000円 | 20日 | 31日 |
合計 | 466,400円 | 53日 | 91日 |
(1)平均賃金(歴日数)の計算
支給総額466,400円÷91日=5,126円
(2)平均賃金(最低保障額)の計算
支給総額466,400円÷53日×0.6=5,280円
(1)が(2)の最低保障額を下回っているため、平均賃金は5,280円になります。
休業手当の額は平均賃金の60%以上となるため、5,280円×0.6=3,168円が支払わなければならない休業手当の額となります。
今回のケースですと、5時間就労しているため、支払われる賃金は
時給1,100円×5時間=5,500円、となり、休業手当の3,168円を超えていることから、労働基準法としては最低限保障している、ということになります。
もしも実際に労働した時間で支払われる賃金が休業手当額を下回る場合には、その差額を会社は支払わなければなりません。