賃金不払いが疑われる事業場に対する監督指導結果が公表されました
~労働基準監督署の指導により支払われた賃金額、162億円~
令和6年に賃金不払いが疑われる事業場に対し労働基準監督署が行った監督指導の結果が公表されました。
賃金不払いには、残業代や定期賃金の不払い、また倒産、事業主が行方不明となり支払われなかったものも含まれています。
残業代不払いの指導事例も公表されていますので、気をつけておくべき労働時間管理の要点を確認しておきましょう。
<事例>
1.立入調査の契機
始業前に清掃作業を命じられているにもかかわらず、賃金が支払われていないとの情報を受け、労働基準監督署が立入調査を実施。
2.事案概要
①使用者の指示により清掃作業が行われていたが、その分の割増賃金が支払われていなかった。
②当該清掃作業後にICカードを打刻しており、同作業が労働時間として記録されていなかった。
3.労働基準監督署の指導
①時間外労働に対する割増賃金を再計算した上で、実際の支払額との差額を支払うこと。
併せて、過去に遡って各労働者から事実関係の聞き取りを行うなどの実態調査を実施し、実際の支払額との差額の割増賃金の支払が必要となる場合には、追加で支払うこと。
②使用者の指示により行われた清掃作業等は労働時間に該当することを説明し、労働時間を適正に把握するため、清掃時間も含めて正確な始業・終業時刻を記録すること。
4.会社の対応
清掃作業について労働者へのヒアリングを行い、正しい労働時間数に基づいた、差額の割増賃金を支払った。また、清掃作業は、就業開始後に行うよう管理者を含めた関係労働者に対して指示が行われた。
<確認しておきたい事項>
1.労働時間とは?
「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいい、明示的か黙示的かを問わず使用者の指示により業務を行う時間は労働時間として扱われます。
下記の時間も労働時間に該当しますので、自社での取扱いがどうなっているか確認しておきましょう。
①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)の時間
②手待ち時間(指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間)
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
2.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置とは?
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。使用者には労働時間を適正に把握する責務があることを認識しておきましょう。
始業・終業時刻の確認と記録の方法には、自己申告制も一定の要件を満たせば認められてはいますが、勤怠システムなどにより客観的な記録を残すようにしておくことが重要です。
事例では、労働者へヒアリングを行いその結果をもとに差額の割増賃金を支払っていますが、過去のことを正確に覚えておくのは限界があり過大に支払っている可能性も否定できません。時間外労働に対する割増賃金の支払いは、不足することは当然のことながら過大に支払うことも経営にとっては問題です。労働時間に該当する時間を再度見直し、労働時間について客観的な記録を残しておくことが、過不足なく割増賃金を支払うことにつながります。
出典:賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)|厚生労働省
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省
以 上