年金制度改正法案について
~いわゆる年収106万円の壁撤廃など保険料負担増加に関する改正も~
令和7年5月16日、年金制度改正法案(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案)が第217回通常国会に提出され20日より審議が始まっています。
改正法案は「働き方や生き方、家族構成の多様化に対応する」、「現在の受給者、将来の受給者の双方にとって老後の生活の安定、所得保障の機能を強化する」を基本の考え方とし、主な改正内容は下記のとおりです。
1.社会保険の加入対象の拡大
中小企業の短時間労働者などが厚生年金や健康保険に加入し、年金の増額などのメリットを受けられるようにする。
2.在職老齢年金の見直し
年金を受給しながら働く高齢者が年金を減額されにくくなり、より多く働けるようにする。
3.遺族年金の見直し
遺族厚生年金の男女差を解消する。こどもが遺族基礎年金を受取りやすくする。
4.保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げ
一定以上の月収のある方に賃金に応じた保険料負担を求め現役時代の賃金に見合った年金を受け取りやすくする。
5.その他の見直し
こどもの加算などの見直し、脱退一時金の見直しを行う。iDeCoに加入できる年齢の上限引上げなど私的年金の見直しを行う。
企業に負担がかかる保険料についての主な改正は、「1.社会保険の加入対象の拡大」と「4.保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げ」の2点です。
<社会保険の加入対象の拡大>
短時間労働者(週所定労働時間20時間以上)の厚生年金等の適用要件である賃金要件と企業規模要件を撤廃することとしています。
1.賃金要件
現在は、賃金が月額8.8万円(年収106万円相当)以上であることが要件ですが、改正法ではこの要件を撤廃するとしています。いわゆる「年収106万円の壁」の撤廃です。
最低賃金が1,016円以上の地域では、週20時間働くと賃金要件(年額換算で約106万円)をすでに満たしており今後の最低賃金上昇により全国の最低賃金が1,016円以上となることを踏まえた改正です。
2.企業規模の要件
現在は、51人以上の企業が適用対象となっていますが、下表のとおり段階的に撤廃するとしています。
出典:厚生労働省「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案の概要」
<保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げ>
保険料や年金額の計算に使う賃金である「標準報酬月額」の上限は現在65万円ですが、3年間かけて段階的に引上げ75万円にするとしています。
賃金が66.5万円以上の方は、改正により厚生年金保険料負担が増加します。保険料の負担は労使折半ですので企業の負担も増加しますので注意が必要です。
改正法が成立するかはわかりませんが、人件費に大きな影響を与える保険料に関する改正点ですので内容を確認し保険料負担の増加額試算や人員計画の見直しなどを行い備えておいた方がよいでしょう。
参考:年金制度改正法案を国会に提出しました 厚生労働省
社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案の概要 厚生労働省
以 上