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行政ADRの根拠法の整備と企業の対応について

会社と労働者の個別労働紛争が発生した場合、様々な解決方法がありますが、その中でも今回は「行政ADR」を取り上げてみます。

2020年4月には「パートタイム労働法」が、「パートタイム・有期雇用労働法」に、また「労働者派遣法」についても「同一労働同一賃金」による不合理な待遇差の解消を目的とした法の改正がありました。

そういった法改正に伴い、派遣社員やパート・アルバイト、契約社員(有期雇用労働者)に係わる『行政ADR』の根拠規定が整備されましたので、その整備された内容と、会社が受ける影響や今後どのような対応をしていかなければいけないかについてお話をします。

 

ADRとは「裁判外紛争解決手続」(Alternative Dispute Resolution)のことで、裁判ではなく、公正中立な第三者が当事者間に入り、話し合いを通じて解決を図る手続です。このうち「行政ADR」は、都道府県労働局長による紛争解決援助や均衡待遇調停会議による調停が受けられるものです。これにより事業主と労働者との間の紛争について、裁判をせずに解決を目指すことができます。

特徴としては、手続きが無料で迅速、簡便、かつプライバシーが守られ、不利益な取扱いも禁止されているので、労働者にとっては有効な制度といえます。

 

この制度により裁判を経なくても労働者・事業主間の紛争を解決できる間口が広がったと言えます。

 

1、派遣社員の場合

改正前の法律では派遣元および派遣先の双方に対して行政による助言・指導などの規定はあったものの、行政ADRの規定が設けられていませんでした。改正後は派遣社員の「均等・均衡待遇」、「労使協定に基づく待遇」、「待遇差の内容・理由に関する説明」等については行政ADRの対象になりました。

2、パート(短時間雇用者)・有期雇用者の場合

パートタイム労働法の改正(パートタイム・有期雇用労働法に改正)により、パートで働く人に加えて、契約社員等有期雇用で働く人についても、行政指導の規定や労働局長による紛争解決援助、協定会議に調停といったADRの手続きの制度が整備されました。また均衡待遇や正社員との待遇差の内容や理由に関する事例についても行政ADRの対象になりました。

 

では、これを踏まえて、会社は何をしなければいけないのか?

  • 待遇決定のルールに雇用形態で違いがある場合の説明ができるようにしておく

たとえば、正社員には経験や能力に応じて基本給を支給する(職能給)一方、契約社員やアルバイト等には職務に応じて基本給を支給する(職務給)など、待遇の決定基準やルールに違いがある場合があります。このような場合の説明が、単に「正社員だから」とか、「将来の役割期待が異なるため」といった主観的・抽象的なものでは足りないとされています。

「①職務内容②職務内容・配置の変更範囲③その他の事情」の3つの考慮要素を踏まえた、客観的・具体的な説明が求められますので、説明ができる準備をしておく必要があります。

 

  • 正社員の待遇を下げて不合理な待遇差を解消しないこと

不合理な待遇差を解消することの目的は、正社員以外の契約社員等の有期雇用労働者やパートタイム等短時間労働者等の待遇の改善です。正社員との待遇差を解消するために、会社と従業員との合意がない中で、正社員の待遇を引き下げるという方法は、法の趣旨に反するだけではなく、正社員の不利益変更という問題へ発展しますので、こういった手段を選択する場合は、慎重な対応が必要です。

 

  • 「メンバーシップ型」雇用から「ジョブ型」雇用への移行

昨今では「メンバーシップ型」ともいわれる、従来の日本企業の終身雇用を前提としてゼネラリストを育てる制度では、「人に仕事を割り当てる」という考え方なので、同一労働同一賃金という考えには適さないといえます。それに対し、「ジョブ型」といわれる「仕事に人を割り当てる」雇用形態は、正社員だとか契約社員だとかに関係なく、仕事の幅が限定的で明確になっており、同じ職務内容(業務内容と責任の程度)やスキルが同じなら給与も大きくは変わらないという制度ですので、均等・均衡を図る上では適した制度といえます。

 

「行政ADR」の根拠規定が整備されたことで、従業員の不満、不信感等の相談や苦情の申し出がしやすい環境となったことを踏まえ、雇用形態等とは関係なく、従業員間の待遇差を解消する上でも、業務や業務プロセス、給与・評価等の人事制度の見直し等はこれからの企業にとっての課題ではないでしょうか。